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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1331号 判決 1949年12月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人丹篤上告趣意第一点について。

原審第二回公判調書によれば、原裁判所は証人として鈴木房子、小菅米藏を現場で訊問する旨決定を言渡したこと並びに証拠決定をした裁判所の判事全員が檢察官、弁護人、被告人の立会の上訊問した証人鈴木房子、同小菅米藏の訊問調書によれば、その訊問の場所として「横浜市中区本町国民学校に於て」と記載されていることは、いずれも所論のとおりである。しかし、証拠決定をした、裁判所の判事全員が檢察官、弁護人、被告人立会の上裁判所外で証人を訊問する場合における訊問の場所は、必ずしも証拠決定において指定した場所のみに限定されるものではなく、天候、環境その他証拠決定施行の都合により指定場所の最寄りの適当な場所で訊問することを妨ぐるものではない。しかのみならず、右決定にいわゆる「現場」とは、本件では犯行の場所である横浜市中区野毛町所在横浜税務署前なる特定の一地点に限定したものではなく、犯人を逮捕した同市同区花咲町三八七番地先通称瓦斯橋附近に至る道路一帶をも包含する檢証の地域を指す趣旨であること明らかであるから、右逮捕場所附近にある前示国民学校をも含むものと解することができる。それ故論旨は採ることができない。

同第二点について。

しかし所論鈴木房子に対する訊問調書及び聽取書その他原判決の挙げている証拠によれば、原判決の認定した窃盗の事実を肯認することができる。そして、その認定には経驗則に反する点は認めることができない。所論は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難するに帰するから、採ることができない。

弁護人兒玉正五郎上告趣意第一点について。

しかし旧刑訴の下では控訴審の手続は、純然たる覆審手続であるから、第一審における訴訟上の違背のみを以て原控訴判決に対する上告理由とすることはできない。そして原判決は、所論第一審における証人鈴木房子に対する訊問調書を証拠としてはいないのであるから、所論は、採ることができない。

同第三点について。

しかし原判決の挙げている証拠によれば、原判決の判示した窃盗の事実認定を肯認することができる。そして、所論逮捕地点の相違(原審檢証調書によれば十二、三米の相違)のごときは右窃盗の事実認定を左右するに足るものではなく、原判決説示の証拠理由には不備又は齟齬を認めることができない。されば所論は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難するに帰するから、上告適法の理由として採ることができない。

よって旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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